大学院指導について
兼村研究室では、素粒子論の研究に興味がある有望な大学院生をサポートします。特に、5年間で将来研究者の道を踏み出すための研究能力を養成し、十分な研究経験と実績を積むことができるよう、長期的なビジョンで大学院教育を実施しています。大学院での研究活動を通じて、将来、研究者や開発者をはじめ社会のリーダーとして国際的に活躍する人材に要求される様々な資質を育んでもらいます。
修士課程の過ごし方
- 場の量子論、素粒子論の基礎となる知識を、大学院講義や素粒子論研究室のゼミでメンバーと一緒に学ぶ。この時期は勉強だけをしていれば良い最後の時期ともいえます。この時期にいかに深く考えることを行い、基礎を身につけるかで、その後が大きく変わります。
- ゼミの傍らで、修士1年の秋から春にかけて、修士論文でどのような方向性の研究をしたいかを少しずつ考えておく。
- 修士1年の終わりには指導教員と修士論文につながるマンツーマンの議論を始める。周辺領域の文献を調べつつ、ディスカッションを重ねて具体的なテーマを絞り込んでいく。博士課程進学を考えている人は、5月に日本学術振興会の特別研究員(採用されれば博士課程の間、給料と研究費が支給される)に応募するべきであるが、初めての人は、書類書きは結構大変。大抵夏頃には具体的な修士論文のテーマが決まり、それに向けた研究(理論計算や解析)が始まることが多い。やや進みが早く、また意識の高い学生は、そのテーマで秋の物理学会にデビューし発表する場合もある。
- 秋からは研究成果を検討し、オリジナルな研究結果であれば、教員の指導を受けつつ国際的な学術誌(Physical Review Dなど)から英文の論文として出版する準備を始める。年末には修士論文に着手する。1月末までに修士論文を仕上げる。2月中旬に修士論文発表会が行われる。博士課程進学希望者は、修士論文発表会が博士課程の入学試験を兼ねている。修士論文の成果は春の日本物理学会や研究会で研究発表する人が多い。
博士課程の過ごし方
- 修士課程の研究成果をベースにして新しい研究計画を立て、学振研究員等の研究助成等にどんどん応募する。
- 新しい新鮮な情報を収集しつつ、常に新しい研究を進めて、学術論文を積み上げていく。共同研究の輪も少しずつ広がり始める。
- 研究成果は国際的な学術誌から出版し、併せて国内、国外の研究会、国際学会などで研究発表する。そのため世界中を旅行する機会が増える。
- 博士課程3年では博士学位取得後の進路を考える。研究者を志望する人は、11月頃に国内、国外の博士研究員のポジションに応募する。その際、一般的には推薦者3名が必要となる。指導教員に加えて他に2名の推薦書をお願いする人をあらかじめ用意しておく。企業就職を考える人は、博士修了者は一斉雇用でなく中途採用のような扱いになることも多いので、十分な時間をとり自ら積極的に動くこと。
- 博士論文を準備する。博士論文は5人委員会と呼ばれる内審査会(教授5人で構成される審査団の前でプレゼンするクローズドな会)を無事通過して初めて博士論文提出が認められ、博士論文公聴会に進むことができる。
博士学位取得後の研究者としての進路
兼村研究室は、2012年以降これまで10数名の博士取得者を輩出しました。その中の7割強が素粒子論の研究者として研究を続けています。年長の2名は、大学教員(永久職)となっています。残りの6名は任期のある研究員(特任助教、博士研究員(ポスドク))として、国外や国内の研究機関で活発に素粒子論の研究を発展させています。
ポスドクは狭き門で、世界中の100箇所程度の研究機関に応募して数カ所からオファーが来ればたいしたものです。ポスドクは2〜3年程度の任期が多く、世界中の研究機関を渡り歩いて、武者修行をしながら研究者としての研鑽を積みます。私自身も博士号修了後には国内、ドイツ、アメリカの研究機関でポスドクを経験しました。その時の貴重な体験は現在の自分に大きく影響しています。この時期に世界の研究者と人脈を築くことになります。
ポスドクは新研究に励みながら、任期が切れる前に次のポジションに応募していくのです。そうしてふるいにかけられます。永久職は数が限られているため、ポスドクは永久職の公募を待つ間、粛々と研究を続けます。やがて、業績が出せた人の中から業績、評判、タイミングや運に応じて助教や准教授に採用されます。ポスドクの期間は3年〜10年程度です。国内の素粒子論の永久職は増えていませんが、最近はアジア諸国等の研究機関の永久職に就職する日本人若手研究者も増えていて、素粒子論研究者への道が特に狭くなっているわけではありません。