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2022-2025 ドメインウォールフェルミオンで理解する指数定理
基盤研究(B) 22H01219
研究目的
本研究の目的は、時空を離散化した格子上に定義されるドメインウォールフェルミオンを用いて、ゲージ理論の幾何学的性質を、理論的、数値的に探ることである。特に、1. 格子ゲージ理論における指数定理の数学的定式化、2. 臨界温度付近のQCD におけるトポロジー励起の相転移への寄与の検証の研究を進める。
主な研究成果
- 正方格子に曲がったドメインウォールをうめこんだフェルミオン系で重力場が生じ、その系が指数定理で表されるアノマリー流入を正しく再現していることを確認した。
論文はCurved domain-wall fermion and its anomaly inflow
Shoto Aoki(Osaka U), Hidenori Fukaya(Osaka U), PTEP 2023 (2023) 3, 033B05 e-Print: 2212.11583 [hep-lat]
- 正方格子に曲がったドメインウォールをうめこんだフェルミオン系で重力場を定式化する試みを行ったが、この系がトポロジカル絶縁体の中の磁気単極子が電荷を帯びることの微視的な説明を与えることを発見、さらにWeyl フェルミオンのダブリング問題にも関係していることをつきとめた。
論文はMagnetic monopole becomes dyon in topological insulators
Shoto Aoki, Hidenori Fukaya, Naoto Kan, Mikito Koshino, Yoshiyuki Matsuki, PhysRevB.108.155104 (2023) e-Print: 2304.13954 [hep-lat]
およびA Lattice Formulation of Weyl Fermions on a Single Curved Surface
Shoto Aoki, Hidenori Fukaya, Naoto Kan, PTEP 2024 (2024) 4, 043B05 e-Print: 2304.13954 [hep-lat]
2018-2021 ドメインウォールフェルミオンで探るQCDのトポロジー
基盤研究(B) 18H01216
研究目的
量子色力学 (QCD) では、ゲージ場のトポロジカルな励起が、カイラル対称性の自発的対称性の破れを引き起こしていると考えられている。カイラル対称性が回復する高温相では、トポロジー励起は消失しているか、少なくとも強く抑制されているはずである。本研究では、カイラル対称性を保つフェルミオン作用を用いた格子QCD シミュレーションを行い、QCD のトポロジー励起の詳細を高精度で定量評価することを目指す。これにより、有限温度 QCD に知られていなかった 1 次相転移を確認できる可 能性があり、その場合は宇宙初期の相転移シナリオにも影響を与える。さらに高温領域の結果はアクシオン暗黒物質の残存量にも制限を与える。厳密なカイラル対称性を保つ作用を用いて有限温度 QCD のトポロジーを探るのは世界初の試みであり、対称性を損なう形で行われてきた従来の研究とは異なる、問題への明確な答えが引き出せるはずである。
主な研究成果
温度165MeV以上の高温格子QCDのシミュレーションの結果、トポロジー励起がカイラル対称性を損なう手法の従来の研究に比べて、有意に抑制されていることが確認できた。axial U(1)感受率、 中間子,バリオン2点相関関数の計算も実行、複数の異なる観測量のカイラル極限が、軸性U(1)アノマリーの消失と統計誤差の範囲で無矛盾であることを確認した。この研究成果はPhysical Review D誌に掲載、また、2020年度HPCI利用研究課題優秀成果賞を受賞した。 また、カイラル感受率を軸性U(1)の破れとそれ以外に分解して解析することに成功、その寄与が90%に達するという驚くべき結果を得た。
これまでの格子QCDシミュレーション、特に有限温度QCDシミュレーションでは、計算コストの問題があるために格子上でカイラル対称性を壊す理論定式化が使われてきた。この手法では、自発的カイラル対称性の破れが不明確になるばかりでなく、カイラル対称性と密接に関係する、ゲージ場のトポロジカルな性質も損なわれる。私たちの研究成果は、精密なカイラル対称性をもつ格子QCDシミュレーションで行われた世界初の試みであり、宇宙初期に起こったQCD相転移に対するトポロジカルな励起の効果を定量的に見積もることに成功した。
2018-2020 ドメインウォールフェルミオンで探る格子ゲージ理論のトポロジー
研究目的
ドメインウォールフェルミオンとは、1992年 Kaplan によって提唱された格子上のフェルミオン定式化である。質量が不連続 となる4次元ドメインウォールを仮想的な5次元空間に置くことで、そこに局在した4次元フェルミオンを実現する。これは、表面にディラックフェルミオンが現れるトポロジカル絶縁体と同じ原理である。ドメインウォールフェルミオンはカイラル対称性を保つので、それと密接に関連しているゲージ 場のトポロジーとも相性がよい。 本研究では、ドメインウォールの幾何学的構造をさらに詳細に研究し、Atiyah-Patodi-Singer(APS)の指数定理 を用いてアノマリー降下方程式のフェルミオン場による非摂動的定義を与えることを目的とする。これは、カイラルゲージ理論を高次元時空中のトポロジカル物質系としての正則化につながると考えている。
主な研究成果
2017年、研究代表者と大野木哲也、山口哲は素粒子論でよく知られた手法を使って、Atiyah-Patodi-Singer (APS)指数定理と同じ結果を与える新しい定式化を見出した。非局所的境界条件を必要とせず、ドメインウォールフェルミオンとして知られるトポロジ カル絶縁体のよい模型となる演算子を用い、 APS と同じ結果を与える物理量を定式化した。この研究は数学者からも大きな反響を呼び、指数定理の専門家である古田幹雄、松尾信一郎、山下真由子が共同研究に加わり、 物理、 数学の分野をまたがる共同研究へと発展した。その結果、「任意の偶数次元多様体で与えられる APS 指数に対し、 それと同じ結果を与えるドメイン ウォール フェルミオンの演算子が存在する」ことの 数学的証明を与えることができた。具体的には一次元高い仮想的な時空を用意、そこで曲がったドメインウォールを考えることにより、その時空上でのDirac 演算子の指数が2通りの手法で評価できることを証明、その一方が従来のAPS指数、もう一方がドメイン ウォールフェルミオンDirac 演算子のeta 不変量になることを示した。この研究はCommunication in Mathematical Physics誌に掲載された。さらに、奇数次元のmod-two指数で も同様の定式化が可能であることを示した。
2013-2017 格子QCDにおける有限体積効果を1%以下に抑えるためのパイ中間子有効理論の解析
若手研究(B) 研究課題番号 25800147
研究目的
CERN の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で Higgs 粒子が発見されたが、その振る舞いは素粒子標準模型と無矛盾である。一方、暗黒物質やニュートリノ振動の実験結果により、標準模型を超える新しい物理の存在も確実と言える。このような状況では、素粒子実験、理論の双方を用いて、素粒子標準模型を精密に検証し、実験と理論のわずかな差異を探ることで、新しい物理への糸口をつかむ、ボトムアップ型の研究がますます重要になる。本研究の目的は、強い相互作用を記述する量子色力学(QCD)を精密に理論計算するため、格子QCD数値計算の主要な系統誤差である有限体積効果を精度よくコントロールすることにある。
主な研究成果
- Extracting the electromagnetic pion form factor from QCD in a finite volume, Hidenori Fukaya and Takashi Suzuki, Phys. Rev. D 90, 114508
1%程度の精度でパイ中間子の形状因子を抽出するには、4fm 程度の格子による数値計算があれば、可能であることを示した。
これは従来考えられてきた見積もりよりも小さく、パイ中間子のゼロ運動量モードの寄与を抑えることの重要性を示すものである。
- Computation of the electromagnetic pion form factor from lattice QCD in the epsilon-regime, H. Fukaya, S. Aoki, S. Hashimoto, T. Kaneko, H. Matsufuru, and J. Noaki (JLQCD Collaboration)
Phys. Rev. D 90, 034506
上記の論文の成果を数値計算に応用、1.8fm の格子QCD数値計算結果を解析、この大きさでは系統誤差が10%を超えてしまうものの、その誤差の範囲で実験値との一致が確認された。
- Stochastic calculation of the Dirac spectrum on the lattice and a determination of chiral condensate in 2 + 1-flavor QCD, Guido Cossu, Hidenori Fukaya, Shoji Hashimoto, Takashi Kaneko, Jun-Ichi Noaki (JLQCD Collaboration) Prog Theor Exp Phys (2016) 2016 (9): 093B06.
Dirac 演算子の固有値分布のうち、あらかじめ有限体積効果が小さいとわかっている領域をカイラル摂動論で逆算してもとめ、そこの分布とBanks-Casher関係式を比較することにより、カイラル凝縮を精密計算することに成功した。カイラル対称性を保つ、メビウスドメインウォールフェルミオンを用いた大規模数値シミュレーションを実行、カイラル極限、連続極限、有限体積効果の系統誤差の合計を中心値の1.8%に抑えた。