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ドメインウォールフェルミオンで探るQCDのトポロジー
基盤研究(B) 18H01216
研究目的
量子色力学 (QCD) では、ゲージ場のトポロジカルな励起が、カイラル対称性の自発的対称性の破れを引き起こしていると考えられている。カイラル対称性が回復する高温相では、トポロジー励起は消失しているか、少なくとも強く抑制されているはずである。本研究では、カイラル対称性を保つフェルミオン作用を用いた格子QCD シミュレーションを行い、QCD のトポロジー励起の詳細を高精度で定量評価することを目指す。これにより、有限温度 QCD に知られていなかった 1 次相転移を確認できる可 能性があり、その場合は宇宙初期の相転移シナリオにも影響を与える。さらに高温領域の結果はアクシオン暗黒物質の残存量にも制限を与える。厳密なカイラル対称性を保つ作用を用いて有限温度 QCD のトポロジーを探るのは世界初の試みであり、対称性を損なう形で行われてきた従来の研究とは異なる、問題への明確な答えが引き出せるはずである。
主な研究成果
- 高温QCDで現れる近似的対称性の研究
Graz大(のちに大阪大学に特任研究員として採用)のChristian Rohrhofer らとの共同研究で、380 MeV付近の高温QCDをシミュレート、
QCDの作用には存在しないはずのSU(4)の対称性が、2体クォーク系の相関関数に近似的に現れていることを見出した。この事実は高温状態であった初期宇宙の理解に変更を迫る可能性がある。
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ドメインウォールフェルミオンで探る格子ゲージ理論のトポロジー
研究目的
ドメインウォールフェルミオンとは、1992年 Kaplan によって提唱された格子上のフェルミオン定式化である。質量が不連続 となる4次元ドメインウォールを仮想的な5次元空間に置くことで、そこに局在した4次元フェルミオンを実現する。これは、表面にディラックフェルミオンが現れるトポロジカル絶縁体と同じ原理である。ドメインウォールフェルミオンはカイラル対称性を保つので、それと密接に関連しているゲージ 場のトポロジーとも相性がよい。 本研究では、ドメインウォールの幾何学的構造をさらに詳細に研究し、Atiyah-Patodi-Singer(APS)の指数定理 を用いてアノマリー降下方程式のフェルミオン場による非摂動的定義を与えることを目的とする。これは、カイラルゲージ理論を高次元時空中のトポロジカル物質系としての正則化につながると考えている。
主な研究成果
- Atiyah-Patodi-Singer(APS) 指数定理とdomain-wall Dirac 演算子の研究: 私たちは2017年にAPS指数と同じ量がdomain-wall Dirac演算子から得られることを示した。
この研究は発見法的になされたが、東大の古田、山下、名古屋大の松尾の3名の数学者が共同研究に加わり、一般に偶数次元のAPS指数はdomain-wall Dirac 演算子の$\eta$不変量で書き直せることを数学的に証明した。さらにその格子ゲージ理論における定式化、奇数次元への応用も進め、それぞれ学会発表を行った。現在論文の発表を準備中である。
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格子QCDにおける有限体積効果を1%以下に抑えるためのパイ中間子有効理論の解析
若手研究(B) 研究課題番号 25800147
研究目的
CERN の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で Higgs 粒子が発見されたが、その振る舞いは素粒子標準模型と無矛盾である。一方、暗黒物質やニュートリノ振動の実験結果により、標準模型を超える新しい物理の存在も確実と言える。このような状況では、素粒子実験、理論の双方を用いて、素粒子標準模型を精密に検証し、実験と理論のわずかな差異を探ることで、新しい物理への糸口をつかむ、ボトムアップ型の研究がますます重要になる。本研究の目的は、強い相互作用を記述する量子色力学(QCD)を精密に理論計算するため、格子QCD数値計算の主要な系統誤差である有限体積効果を精度よくコントロールすることにある。
主な研究成果
- Extracting the electromagnetic pion form factor from QCD in a finite volume, Hidenori Fukaya and Takashi Suzuki, Phys. Rev. D 90, 114508
1%程度の精度でパイ中間子の形状因子を抽出するには、4fm 程度の格子による数値計算があれば、可能であることを示した。
これは従来考えられてきた見積もりよりも小さく、パイ中間子のゼロ運動量モードの寄与を抑えることの重要性を示すものである。
- Computation of the electromagnetic pion form factor from lattice QCD in the epsilon-regime, H. Fukaya, S. Aoki, S. Hashimoto, T. Kaneko, H. Matsufuru, and J. Noaki (JLQCD Collaboration)
Phys. Rev. D 90, 034506
上記の論文の成果を数値計算に応用、1.8fm の格子QCD数値計算結果を解析、この大きさでは系統誤差が10%を超えてしまうものの、その誤差の範囲で実験値との一致が確認された。
- Stochastic calculation of the Dirac spectrum on the lattice and a determination of chiral condensate in 2 + 1-flavor QCD, Guido Cossu, Hidenori Fukaya, Shoji Hashimoto, Takashi Kaneko, Jun-Ichi Noaki (JLQCD Collaboration) Prog Theor Exp Phys (2016) 2016 (9): 093B06.
Dirac 演算子の固有値分布のうち、あらかじめ有限体積効果が小さいとわかっている領域をカイラル摂動論で逆算してもとめ、そこの分布とBanks-Casher関係式を比較することにより、カイラル凝縮を精密計算することに成功した。カイラル対称性を保つ、メビウスドメインウォールフェルミオンを用いた大規模数値シミュレーションを実行、カイラル極限、連続極限、有限体積効果の系統誤差の合計を中心値の1.8%に抑えた。