大阪大学 教授/PTEP編集委員
大阪大学素粒子論研究室(大学院理学研究科 物理学専攻)
私の研究テーマは「格子ゲージ理論を用いたクォークの性質」の解明です。
クォークは陽子や中性子の構成要素です。標準模型によるとクォーク同士がケージ粒子のグルーオンによって強く引きつけられクォーク3つの非常に安定な束縛状態として核子(陽子や中性子)が実現します。標準模型の中でクォークとグルーオンの相互作用を記述する場の量子論を「量子色力学」= Quantum Chromo Dynamics、略称「QCD」と呼びます。QCDは核子の他に非常にたくさんの束縛状態を予言します。中でもクォークと反クォークの束縛状態は中間子とよばれ、この中にもかなり安定なものが存在します。
核子は物質の中に大量にあるため雑音のない環境で精密な測定を長時間行うといろいろな情報を引き出すことができます。
暗黒物質やCP対称性の破れを説明する仮説の理論から予言を行い実験結果と比較するためには、理論的に核子内でのクォークの状態をQCDによって完全に記述する必要があります。
場は時空の各点各点で変化するため無限の自由度を持ちます。QCDの場の量子論は量子的な連立非線形波動方程式ですが、解析的に解くことはできていません。私の研究する格子ゲージ理論は連続な4次元時空をいったん離散的な4次元格子で近似し、ファインマンによる経路積分法によって相互作用を含めた量子論を定式化する理論です。いくつかの格子間隔で計算を行ったあと、それらの結果を用いて、離散的な格子の間隔をゼロの極限に外挿入することで場の量子論を数値的に解くことができます。計算は大自由度のモンテカルロ数値積分を行うため、国内の共同利用研究所のスーパーコンピュータを用いて行います。
格子ゲージ理論を場の量子論のひとつである量子色力学(QCD)に応用することで核子の質量や構造など「クォークの閉じ込め」や「カイラル対称性の自発的破れ」など解析的には記述できない非摂動的現象が解明できます。
格子ゲージ理論は1970年代にK. Wilsonによって開発され1978年にM. Creutzによって数値計算が行われました。それ以来、新しい理論定式の開発、計算機の計算スピードの性能向上とアルゴリズムの進展および計算手法の開発により現在では核子や中間子に対して質量や構造を含む性質を1%の精度で再現できるようになりました。